配管のはなし(エピソード2)

配管(エピソード2)である。

或る日、フランス向けの仕事依頼が来た。
2本の配管を計画し、計画図を起こしてフランスの客先に承認を頂き、
承認が取れたら組立図と部品図を仕上げて、再度フランスへ送付すると云う、
比較的簡単な業務だ。

「任せて下さい」
と、意気揚々と計画に取り掛かかり、1日で計画を終えて、
「どうだ」とばかりに提出した。

完璧だった。
計画に2日頂いていたものを1日でこなし、部品の製作性や組立性も検証し、
製作コストもギリギリまで抑えた、正に充実した内容の仕事ぶりだった。

はずだった……。

私はフランス語等到底話せない。
海外とのやり取りは語学に堪能な4ヶ国語を操る担当者(以後、仮にX氏と呼ぼう)
にお願いしていたのだが、X氏曰く。
「計画は完璧だ。しかし、修正して頂きたい」
私は意味が理解出来なかった。完璧なのにやり直す?
「えっ?」
私は、奇声を発したに違いない。
X氏、続けて曰く。
「客先は、今回の計画を評価している。しかし、修正して頂きたい。と言っている」
「は?」
「ほんの少しの変更でいいらしい。やって頂けますか?」
「はぁ……。でも、どこを修正しろと?」
私は力無げに訊いた。
X氏は、私が計画図に添付しておいた三次元CADの計画画像を数枚広げて、
「この配管のこの部分」
っと、指差した。
「はい。しかし、私には問題があるようには思えないんですが……」
「そう。機能的には何ら問題はない。ただ、美しさが足りないらしい」
私は耳を疑った。美しさ???
「美しさ……ですか?」
「そう。相手はそう言ってる」
「美しさって、何の?」
「配管の」

太宰治ではないが、私は激怒した。
今まで、色んな仕事をして来たが、
美しさ等と云うダメだしを受けた事は一度もなかった。
優しい穏やかなX氏は、怒る私をなだめてくれた。私もそのお陰で冷静になり、
その美しさを実現すべく、話し合った。

「で、つまり、結論としては、
曲げを増やして配管を膨らませると云う事なんですね?」
どうも、直管部(配管が真っ直ぐな部位)が気に入らないらしい。
もっと優美に、だそうだ。

通常、配管と云うものは、極力曲げ加工を減らすものだ。
何故なら、曲げ加工が増える度に製作コストは上がるものである。
使用する管材の長さも伸び、材料費も上がる。

また機能面でも、曲げが多いと抵抗になり、流速が落ちる為、推奨されない。
(流速を落とす為にわざと曲げる場合もあるにはあるが……)

500mmくらいの直管部に曲げを2つも追加し、敢えて外側に大きく膨らませて、
その為にわざわざそれを支えるサポートも新規設計し、再度、提出した。

X氏が微笑を浮かべて近づいて来た。
「今回はブラボーだそうだ。ご苦労様。
バラシ(詳細図を作成する事)に入ってくれて問題なしです。宜しく」
私は早々に組立図と部品図を仕上げて、やっとその仕事を終えた。

面白いものだ。コストアップしても曲げを追加して美を追求する等、
考えてもみなかった。

嗜好は千差万別。良い悪いではなく、好き嫌いである。

同じ日本人でも理解し合えない現代、まして国も違い、言語も違う。
この違いを埋めるものは、相互理解への歩み寄りであろう。
その為には、コミュニケーションは必須である。

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