絵画のはなし(西洋画篇)
前出の日本画篇と対を成す西洋画篇である。
西洋画も日本画と同様、実に奥深いものである。
西洋画と云えばすぐに油絵(油彩)を思い浮かべてしまうが、
それは間違いではなかろう。
今日、画材店に行けば色んな種類の油絵具を入手出来るし、
それを溶くオイルも容易に手に入る。
ターペンタイン、リンシード、ポピー等の用途に合わせたものを選択出来る。
キャンバスも豊富で、小品用から大作用まで、
あらゆる号数のものが市販されている。
日本画篇でも私の愛して止まない画家達を紹介させて頂いたので、
ここでも紹介させて頂こう。
先ずはルネサンス期から、二巨匠。
筆頭はレオナルド・ダ・ヴィンチ。
「最後の晩餐」は某映画でも話題になったが、
それを勘定に入れずとも、名作中の名作であろう。
ダ・ヴィンチは未完作品が多いが、この作品は完成した少ない絵画の一つである。
ただ、ここでもダ・ヴィンチの好奇心と研究心が災いし、
壁画であるにも関わらずテンペラ画として描いた為、
劣化が酷く絵具が剥離してしまっているのが残念でならない。
テンペラ画とは、卵を用いた画法であり、本来は壁画に用いる画法ではない。
「モナ・リザ」はここで紹介するのが憚れる程の、
知らぬ者等居ないであろう名作である。
よって、一つだけ面白いエピソードを添えておくに留めよう。
現在よりもっと大きな作品であったが、
ナポレオンが額縁に収まらないからと、左右を切ってしまったらしい。
次は、ミケランジェロ。
「最後の審判」は超大作でしかも超名作であろう。
ダ・ヴィンチと違い、
ミケランジェロが正当な技法を用いて完成させた天井フレスコ画である。
フレスコ画とは、漆喰(しっくい)が乾燥しない内に顔料を入れる画法で、
失敗は許されない。高度な技術と計画性が必要である。
ミケランジェロは画家としても優れていたが、
彫刻家としても天才的で、「ピエタ」と「ダビデ」は傑作である。
どうしても紹介しておきたいのは、
あまり取り上げられる事はないのだが、私の大好きな西洋画家の一人、
ヒエロニムス・ボスである。
オランダ(当時はネーデルラントと云われていた)の画家で、
代表作は、祭壇画「快楽の園」である。
三面に現世・天国・地獄をそれぞれ描いているのだが、
幻想と奇想の宝庫で、画集をいくら見ていても飽きない。
お次はジャン・フランソワ・ミレー。
フランスの画家で、「種まく人」は、
読書好きには馴染み深い出版社の岩波書店のマークになった名作である。
他に「落穂拾い」、「晩鐘」、「羊飼いの少女」等、
農民を愛情を込めて描いた傑作揃いである。
ピーテル・ブリューゲル。
フランドルの画家で、彼も多くの農民達を描いた先駆者的存在である。
しかもそれだけに留まらず、その作品に様々な諺や寓意を込め描いた。
代表作には「バベルの塔」があるが、
私は「盲目の寓話」と云う作品を見て、衝撃を受けた。
遠景に教会を配し、近景には黒く大きな亀裂があり、
そこに杖をついた盲目の人達が手を取り合い、
歩んで向かっていると云う皮肉な作品である。
(確か聖書の一節がモチーフだと読んだ事がある)
小学生の時にこの絵画を美術書で見て以来、その絵が脳裏を離れない。
私にとっての原体験的絵画である。
レンブラント。
オランダの画家で、代表作は「夜警」であろうか。
題は夜の出来事を思わせるが、実は昼の場面を描いているそうである。
画面が暗く描かれている為にこの題がついたそうだ。
「自画像」を多く描いた画家としても有名であるが、
中でも晩年の自画像は、一度は目にした事がおありだろう。
暗い背景に浮かび上がる年老いた自画像で、
光の画家の名に相応しく、光線を効果的に取り入れた作品である。
ちなみに、雲間から神々しく差す光を「天使の梯子」と云うが、
別名は「レンブラント光線」である。
印象派の画家達も大好きであるが、紙幅の都合で割愛させて頂いて、
次にはポスト印象派
(私の時代には「後期印象派」と習ったものだが、現在ではこう呼ぶらしい)
の二人を紹介しよう。
ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ。(オランダ)
西洋画家中で最も好きだと云っても過言ではない。
「ひまわり」の連作は、オークションで高額をマークしたが、
そんなエピソードは副次的なもので、兎も角、あの絵が大好きである。
あの黄色は、ゴッホの全ての才能を現しているのだ。
ミレーの「種まく人」は、ゴッホが模写した事でも有名であるが、
ゴッホの作品は明るい色使いで、模写を超えた作品へと昇華されている。
ゴッホは日本の浮世絵に大きく影響された事でも有名であり、
広重「名所江戸百景」の「亀戸梅屋鋪」と「大はしあたけの夕立」を
模写した作品が残っているが、これも模写を超えた名作である。
有名な耳切り事件等、衝撃的な話にも事欠かないが、天才の性(さが)なのだろう。
ゴッホの話だけで、いくらでも書けてしまいそうだが、これくらいにしておこう。
ポール・ゴーギャン。(フランス)
ゴッホの友人であり(後に意見の違いで決別する事になる)、
あの「ひまわり」を贈られた人物である。
ゴッホと決別後、失意の中でタヒチに渡り、独特な画風を手に入れた。
タヒチの画材に乏しい状況下で、
絵具を節約する為にキャンバスに薄く塗られたあの画風は、
皮肉にも画家の持ち味となった。
また、これも皮肉な事だが、ゴッホの厚塗りと正反対で、
何とも形容の出来ないある意思を感じずには居れないのである。
「われわれはどこから来たのか、われわれは何者か、われわれはどこへ行くのか」
は、ゴーギャンが遺書代わりに描いたと云う傑作である。
大作ではないが「赤い花と乳房」と云う作品が私は大好きだ。
タヒチの女性を描いているのだが、実に美しく、名品である。
グスタフ・クリムト。(オーストリア)
クリムトは、絢爛豪華な壁画を多く描いたが、有名なのはやはり「接吻」であろう。
日本の琳派の影響もあるとされる画家で、
退廃的な画風と金箔の多用を見事に駆使した天才である。
「ベートーベン・フリーズ」は壁画で、
ベートーベンの第九交響曲を素材に作成された。
壁面にそれぞれ第一楽章から歓喜の歌の第四楽章まで、
完璧に謳い上げた傑作である。
エゴン・シーレ。(オーストリア)
クリムトの友人で、クリムトの絢爛豪華さの対極に位置する画風の画家である。
クリムトが自画像を殆んど残さなかったのに反して、
シーレは無数の自画像を残した。
自画像も素晴らしいが、
私は特に「黒髪の少女」と云う作品が好きなのだが、
百聞は一見に如かずで、機会があれば、是非ご覧頂きたい作品である。
アメデオ・モディリアーニ(イタリア)の肖像画群も素晴らしい。
好きな画家達の紹介となると切がないのだが、後二人だけ。
やはりパブロ・ピカソ(スペイン)に触れない訳にはいかないだろう。
「ゲルニカ」は有名だが、キュビスム以前の「青の時代」のピカソが大好きである。
サルバドール・ダリ。(スペイン)
シュールレアリスムの権化と云ってもいいだろう。
数多くの奇行でも知られているが、本当はすごく常識人だったと云われている。
そのパフォーマンスも彼の芸術作品の一つなのだろう。
ピカソは天然の天才で、ダリは人工の天才である。
「記憶の固執」は、彼の代表作であろう。
時計が溶けた様にダラリとしている絵である。
私の一押しは、「十字架の聖ヨハネのキリスト」と云う作品で、
何とキリストを上から見下ろした構図になっているのだ。
芸術の秋。
久しぶりに美術館へでも行こうか。