三国志の話(呉)

『呉』は、孫堅(そんけん)、孫策(そんさく)、孫権(そんけん)と
三代で治められた中国大陸の南に位置する国である。
昨今、映画で話題の「赤壁の戦い」の舞台になった場所である。
あんなイケメン達が活躍したかどうかは別としても、三国志の山場の一つである。

呉の国には、どうも容姿に焦点を当てた話が多いように感じる。
あの映画の一応の主役であろう周瑜(しゅうゆ)は、
美周郎(びしゅうろう)と呼ばれて、絶世の美男だったそうだ。
その妻の小喬(しょうきょう)は、姉で孫策の妻の大喬(だいきょう)と、
二喬(にきょう)と呼ばれ、これまた絶世の美女だったそうだ。
前述の『魏』の曹操がどうしても二人を手に入れたいと執心だったと伝えられる。

美しいばかりでなく、醜い方の話も書いておこう。
龐統(ほうとう)は、その顔の醜さ故に取り立てられなかったそうだが、
しかし、諸葛亮孔明と並び称される人物で、
どちらかを軍師に迎えれば、天下が取れるとまで云われた。

後に『蜀』の劉備玄徳(りゅうび げんとく)は、
どちらも迎えるが、結局天下は取れなかったが……。

二人は共に同じ教室で学んだ同期で、
その先生から、諸葛亮は臥龍(がりゅう)、龐統は雛鳳(すうほう)と呼ばれた。
中国古典に限らず、日本古典等のこの様な表現、
喩え(たとえ)と云おうか、比喩(ひゆ)と云おうかは、実に素晴らしいものである。

ちなみに、臥龍とは天に昇る機会を待ち、文字通り淵に臥(ふ)せる龍の事であり、
雛鳳とは鳳凰(ほうおう)の雛(ひな)の事である。

ついでに、龍も鳳凰も想像上の生物で、
龍は、角は鹿、頭は駱駝(らくだ)、眼は鬼或いは兎、体は大蛇、
腹は蜃(しん)、つまり蛟(みずち)の事、背中は鯉、爪は鷹、掌は虎、
耳は牛に似るとされている。
蜃も想像上の生物で、
「蜃気楼」の蜃であり、蜃の吐息(気)が楼閣になると云われている。

また、龍には八十一枚の鱗があり、
喉下(のどもと)に一枚だけ逆さまに鱗があるとされる。
これが所謂「逆鱗(げきりん)」である。
龍はこの鱗に触れられるのを嫌うとされ、これに触れると即座に殺されると云う。
古来中国では皇帝を龍になぞらえた。
故に皇帝の怒りに触れる事を「逆鱗に触れる」と云うのである。

鳳凰は、容姿は孔雀と鶏に似るとされ、五色に輝き五音の声を持つと云う。
「鳳」は雄で「凰」は雌を意味する。
金閣寺の天辺(てっぺん)のあの鳥である。

さてあまりに前置きが長くなってしまったが、
呉と聞いて思い浮かべるものは何であろうか?

この「呉」の文字を見るとわかるかも知れないが、「呉服」である。

今はあまり「呉服」とは云わない事が多いが、つまり日本の着物、和服の事である。
本来は、呉から伝わった絹織物の事を呉服と呼んだらしい。

現在でも所謂着物を商う店の事を呉服屋と呼ぶが、
元々は絹製品を扱う店を特に呉服屋と呼んだそうだ。

この季節、浴衣で夕涼みなんて云うのも乙(おつ)なものである。

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