鋳造のはなし

先ずは、鋳造を講談社発行の日本語大辞典で引いてみよう。

【溶解した金属を鋳型(いがた)に注ぎこんで冷却し、所定の形状の鋳物(いもの)とする金属加工法。金属は鋳鉄・鋳鋼・銅・銅合金・軽合金など広範囲。Casting】

とある。鋳造も鍛造同様、古来より受け継がれた製法である。
少し補足するなら、製品形状を木材等で作り(一般に中子(なかご)と呼ばれる)、
一方、鋳型は型枠に砂等を詰め込んで上型と下型を分割して作成し、
その鋳型へ中子を埋め込み形状を凹状に写し取る。
(この鋳型を主型、外型や雌型と呼ぶこともある)

上型には、溶解した金属を流し込むための受口や湯口、
金属から出るガスを抜くためのガス抜き等を設ける。
上下の型から中子を抜き取り、再度重ね合わせて受口から金属を流し込み、
冷却を待ち、砂で出来た鋳型を壊せば(砂なので壊し易い)、
中から鋳物が出てくると云う按配である。

ちなみに鋳物(鋳造品とも云う)に抜き勾配がつけられているのは、
中子を鋳型から抜き易くするための工夫の跡である。

では、鋳造品と云えば何を想像するだろうか?
私は、奈良の大仏である。
正式名称を『盧舎那仏坐像』(るしゃなぶつざぞう)と云う。
一般に大仏殿と呼ばれる建物は『東大寺金堂』(とうだいじこんどう)で、
その本尊とされている。

あの大仏が鋳物なのである。高さ15メートルの像である。
世界最大のブロンズ像と云われている。

あまりにも大きく一度では鋳れないため、
八段に分けて製作し、二年を要したと伝えられている。
確かに今でもじっくりと観察すると分割面が見て取れる。

木材や縄等で大仏の骨組みとなる大まかな形を枠組みし、
それに粘土を付けていき最終形状(まさに大仏の姿)を製作する。
これを原型と呼ぶ。

十分に乾燥させた原型に薄紙や雲母(うんも)を巻き付け、
隙間が出来ない様に密着させて外型を粘土で作成する。
薄紙や雲母は、原型と外型が密着はするが接着しないための工夫である。

外型も十分に乾燥させ取り外し、原型の外表面をある一定の厚みで削り取る。
これが中子になるのである。

外型を所定の位置に戻すと中子と外型の間に削り取った部分の空間が出来る。
これが溶解した金属を流し込む空洞で大仏自体の厚みとなるのである。

こんな作業を実に八段分繰り返し、その後、表面を仕上げ、
鍍金(ときん)(金メッキ)を施して、やっと大仏は完成する。
当初は金色に輝いていたと伝えられるが、現在では黒く光っている。

奈良にお出かけになる際には、大仏の製作過程を思い乍ご覧下さい。
分割面がいくつあるか数えてみるのもご趣向です。

そうそう。
鋳造とは関係ないのですが、
大仏の前方左右にある花瓶に蝶が造形されているのをご存知でしょうか?
なんと昆虫なのに足が八本あります……。

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