工具のはなし
「工具」は実に多種多様である。
ここでは、取っ掛かりに、動力源での分類を試みよう。
先ずは、手動工具であろう。
動力は、謂わずと知れた人力である。
大概の工具はこの分類に入ってしまうだろうが、工具の性質上、致し方あるまい。
次に、電動工具がある。
動力は電気で、コンセントに差し込んで使用するものもあれば、
充電したバッテリーを搭載して、コードレスで使用するものもある。
よく建設現場で耳にする「インパクト」は、
インパクトドライバーやインパクトレンチ等で、
ボルトを締め込む為の工具であるドライバーやレンチを電動にしたものである。
他には、エアツールと呼ばれる空気圧を動力源とする工具や、
大きな力を必要とする時に用いられる油圧工具等も存在する。
工場等では、天井にエアツール用の配管があり、
先端のアタッチメントを取り替える事により、色んな作業が出来る様になっている。
電動を筆頭に、人力以外の動力を用いれば、
楽で、作業効率もアップし、ある程度の品質維持にもなる。
実に便利な世の中になったものだが、
パワーが大きい分、扱いを間違うと大惨事に成りかねないので、注意したい。
閑話休題
皆さんは、手動工具と云うと何を思い浮かべるだろうか?
スパナ、金鎚、六角レンチ、塩ビカッター等々々々……。
携わっている職業によって、色々だと思うが、
私は小さい頃に見た大工さんの道具を思い浮かべてしまう。
鋸(ノコギリ)、鉋(カンナ)、指金(サシガネ)、墨壺(スミツボ)……。
腕のいい大工さんの道具は、きれいに手入れされており、いいものだ。
ノコギリは、誰もが知っている切る為の道具で、片刃と両刃があり、
木材によって使い分けたり、木目によって使い分けたりするそうだ。
ちなみに、
日本のノコギリは、手前に引くと切れるようになっており、
西洋のノコギリは、押すと切れるように作られている。
その為、日本のノコギリはそう力を必要としないが、
西洋のノコギリは力が必要で、ノコギリ自体の強度上、分厚く作られている。
カンナは、最近あまり見なくなったが、表面を削って加工する為の道具である。
台鉋(ダイガンナ)は、四角い木の中に刃を埋め込んだ様な形状で、
下面から刃を出して、木材にあてがい、表面を平らに削るものである。
片目で睨みながら、カンナの尻を槌で叩く大工さんの姿は、実に格好良いものだ。
古くは槍鉋(ヤリガンナ)で、柄の先に刃を取り付けた道具で、
用途は同じだが、使いこなすには、ダイカンナ以上に熟練を要したそうだ。
サシガネは、L字型になった平らな金属性のもので、裏表に目盛がつけられている。
この表の目盛は尺貫法の1寸になっており、現在はメートル法になっているそうだ。
裏の目盛には、平方根や円周率を掛けたものが刻まれている。
これで、正確な45度を作ったり、
角材から切り出す際の最大の丸材の直径を算出したり、
丸材の円周を計測したりする事が出来るそうだ。
実に何役もこなす優れた道具である。
ちなみに、「いったい誰のサシガネだ?」等と云う、悪役のお馴染みのこの台詞。
昔、大工の棟梁がサシガネを手に持ち、あれをやれ、これをやれと、
指示していたところから、裏で手を引くものの事をこう言うとされている。
スミツボは、真っ直ぐに線を引く道具で、
本体に墨を溜める穴が彫り込まれており、そこに綿を入れ墨を染込ませてあり、
糸を巻き取る糸車があり、糸は先端に針が付けられている。
木製で精巧な彫刻の装飾が施され、それだけでも素晴らしい工芸品である。
現在はプラスチック製のものや、墨を使わないチョークと呼ばれるものもある。
幼い頃、近所で家を建てていた大工さんを飽きもせずに眺めていた。
長い材木を寝かせて、
カンナをかけたり、墨を打ったり、鑿(ノミ)で穴を刳ったりしていた。
その内に大工さんと仲良くなって、端切れで積木を作ってくれた。
その大工さんのスミツボは、大きくて、精緻な龍が彫刻された立派なものだった。
欲しいと言って駄々を捏ねたら、翌日、使っていないからと、
尻尾の大きな亀が彫刻された小ぶりのスミツボを持って来てくれた。
小ぶりとはいえ木製で、子供にはズッシリとくる重みと質感だった。
あのスミツボはどこにいってしまったのだろうか……。